第1章「Heart」~蕾~ ③

彼らと別れ、ナイト達は改めてよつばの養父の元へと歩く。
「驚いたね」
「ああ」
胸ポケットに入れたコータからの手紙にそっと触れれば、ぬくもりが伝わってくるようだ。
(懐かしいな。あの子も、俺の似顔絵を描いてくれたことがあった……)
新しい宝物の喜びと共に、『彼女』との思い出も、温かくよみがえってくる。
「あいつらみたいな子供も、いてくれるんだなあ」
感慨にふけるようなブランの呟きに、カインも目を細めて頷いた。
大人から聞かされた話でしかその存在を知らず、ドライアドは恐ろしいものなのだと、そう思っていたはずのリョータとコータ。
けれど彼らは実際にドライアドロイドという存在に出会い、怖くなどない、分かり合えると、そう感じてくれたのである。
「ナイト達がこの街で、人のため、ドライアドのためにしていることはやっぱり間違ってないよ。ああして、分かってくれる子達もいるんだもの」
よつばが言った。
「今はまだ少ないかもしれないけど、絶対にまた、一緒に生きられるよ」
「……ああ」
あの子供達のような人間がいる。ドライアドを信じてくれる、お互いを信じ合える存在がいる。
自分達がやっていることは無駄ではない、ただの夢ではないんだとそう思える。
「絶対にまた一緒に生きられる。そのために、自分達の出来ることをやっていくんだ」
「おう!」
「うん」
三人は決意を新たに、頷き合った。

よつばの案内で、賑やかな商業エリアを抜けて空中回廊へ上がる。
「アランと私の住んでいるところは居住エリアの中なんだけど、研究所は学園・研究エリアの方にあるんだ」
「研究所?」
「アランさんが研究者であるって話は聞いたけど、その研究所っていうのは……?」
まさか堂々と、ドライアド研究所という名を掲げているはずはない。
ナイトとカインが問えば、
「マクファーデン研究所っていう名前で、子供向けのタブレットや玩具を開発してる研究所……」
「……ってことになってるの。表向きはね」
小声でよつばは付け足した。
学園・研究エリアは、ここからはもう少し先だ。しかしルカの店からも、ナイトの仕事場からも、徒歩で行き来できない距離ではなさそうだった。
四人は他愛のない話をしながら、マクファーデン研究所へと向かう。
「カイン、こないだナイトから貰った本はどうだったんだ?」
「それはもう! 本当に素晴らしかったよ! まず何がすごいって――」
「お、おう」

「――そういえば、ナイト」
動物の本について熱く語るカインと、それに相槌を打つブランの後ろを歩きながら、よつばがナイトに話しかけた。
「こないだタブレットで色々見せてもらった時に、メインストリートにナイトのデザインした服の新作が飾られてるって聞いたから、私も見に行ってきたの」
「え、本当に?」
「うん! どのドレスもすごく綺麗だった……! もちろんタブレットで見た時も驚くほど可愛いと思ったけど、実際に見たら、画像よりもさらに素敵で……!」
どれほど感動したか上手く言葉にできないのがもどかしいと言うよつばに、ナイトは笑う。
「ありがとう。そんなふうに思ってもらえて光栄だ」
「待ち合わせの前に、打ち合わせをしていたと話しただろう。あのドレスシリーズの次回作についての打ち合わせだったんだよ」
「そうなんだ! 次の新作も楽しみだなぁ。どんなデザインなんだろう」
「出来上がったら、プレゼントするよ。先日助けてくれたお礼も兼ねて」
「えっ、私に? いいの……?」
「ああ」
思わぬ申し出に、わあ、とよつばの声が弾む。
「どうしよう、すごく嬉しい!」
「君の期待に応える、素敵な服を作るから、楽しみにしていてくれ」
「うん……! ありがとう、ナイト!」
約束だ、とナイトが少年達にしたのと同じように手を出すと、よつばも笑顔でパチッと手を合わせた。


***


メガシティ灯京の中央部に立ち並ぶ、高層ビル群。
その内の1つ、『D2コーポレーション本社ビル』と名付けられた建物の最上階、所長室。
「失礼いたします」
薄暗い部屋に、秘書と思わしき者の声が響く。
「例の開発は、順調に進んでいます。サンフランシスコで行った実験では、差異は5パーセントほどであったと。一部のデバイスパーツの調整を行えば、その問題もクリアになるだろうと、現地の責任者から連絡がありました」
「そちらに問題がなければ、実証実験に入れる段階かと存じます」
「……そうか」
広い部屋の中央には、電子モニターが浮かび上がっている。
そこに表示されているのは、大量に並ぶ人の形を模した機械。いずれも目は閉じ、口にあたるパーツは見当たらない。
「ふ……ようやく私の悲願が達成される」
男はうっすらと笑む。
「実証実験には、私も立ち会う。場所はここ……灯京だ」
その瞳に、冷たく青白い光と無機質な機械達が不気味に映った――。




>>to be continued...

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