第1章「Heart」~蕾~ ②

こちらを見上げる、幼い兄弟。
「君達は……」
間違いない、一週間前ナイトが助けた、あの男の子達だ。
よつばをちらりと見やれば、彼女も彼らのことを覚えているようだった。
二人の様子を見て、すぐにカインが気付く。
「もしかして……大階段で助けたっていう?」
「ああ」
ナイトが頷き、ドライアド三人のまとう空気が少しだけ険しく硬質なものに変わった。
この少年達は、ナイトの正体を知っている。
まだ子供である彼らに警戒心など抱きたくはない……そう思いつつも身も心も構えてしまうのは、この灯京で正体を隠している以上、仕方のないことだった。
一方で兄弟達の方も、緊張した面持ちでこちらを見ている。
「やっと見つけた。どうしても言いたいことがあって、ずっと探してたんだ」
「俺を?」
「うん」
兄の方の少年が、強く頷いた。
弟は兄の背中に隠れながらも、じっとナイトを見つめている。
「……俺に、何か用事だったのかい?」
「うん」
少年は小さく深呼吸をすると、改めてナイトに向き直った。
「あの時は、びっくりしたのと、周りに大人の人達がいてちゃんと言えなかったけど、コータを助けてくれてありがとう!」
そして、ぺこっと頭を下げる。
同時に、コータと呼ばれた弟が兄の陰から出てきて、ナイトに何かを差し出した。
「おにいさん、ありがとう! これ、あげる!」
「えっ」
突然のことに戸惑いつつも受け取ると、それは手紙のようだった。
「……見てもいいかい?」
「うん」
広げればそこには、『おにいさん、ありがとう』の文字と、色をふんだんに使った似顔絵。
金髪に、緑の瞳――似顔絵のモデルがナイトであることは、疑いようもない。
「わあ……!」
「…………」
よつばが感動したように声をあげる隣で、ナイトは言葉を紡ぐことができないでいた。
想像もしていなかった。あの時自分は、彼らのことを怖がらせてしまっただろうと思っていたのだ。
それが……。
(まさか、お礼を言うために探してくれていたなんて。その上……こんな温かな手紙を俺に……)
感極まり、手紙を見つめたまま何も言えないでいるナイトの代わりに、ブランが兄弟の前へ出た。
目線を合わせるようにしゃがむと、二人の頭をわしゃわしゃと撫でる。
「お前ら、ちゃんとお礼が言えて偉いな! この兄ちゃん、嬉しすぎて声が出ないってさ!」
「ふふふっ」
「ははっ」
その言葉に、カインとよつばも笑い出す。
「ほら、ナイト」
カインに呼ばれて、ナイトはやっと我に返った。ブランに倣って屈むと、ドキドキとした表情でいる彼らと真っ直ぐに目を合わせる。
「本当にありがとう……。すごく、すごく嬉しいよ。この手紙は宝物にする」
心からの気持ちを伝えたナイトの微笑みに、やっと二人は不安が消えたようで、ぱぁっと満面の笑みを浮かべた。
「あの時は驚かせてしまって、ごめんな」
「ううん! お兄さん、足は? もう大丈夫?」
「ああ、もう何ともない」
よつばに直してもらった部分を、とんとんと叩いてみせる。
「良かった!」
「ぼくもね、おにいさんが助けてくれたから、どこも痛くなかったよ!」
弟の言葉に、ナイト達も改めてほっとする。
するとふいに、兄の方が周りをきょろきょろと見回し、ナイトに手招きをした。耳を貸してほしいという意味らしい。
ナイトが耳を寄せれば、彼は小さな声でナイトに問いかけた。
「……お兄さんは……ドライアド……なんだよね」
先日の大人達の反応を覚えているのだろう。辺りを気にしつつ、真剣な顔で尋ねる。
「……ああ、そうだよ」
自らも周囲に気をつけながら、それでも偽らずにナイトは答えた。
「ぼく、ドライアドの人に会ったの、初めてだったんだ」
彼らが生まれたのはルナティクス・エラー以降だろう。ドライアドを見たことがなくても不思議はない。
「ドライアドは怖いロボットなんだって、パパやママが言ってたから、そうなんだって思ってた。だからあの時も、びっくりして……」
彼は申し訳なさそうに目を伏せる。
「でも、怖いなんてウソだよ。お兄さんは全然怖くないもん。とっても優しくって、いい人だよ」
「うん、それにすっごくかっこいい!」
兄に続き、弟が身を乗り出すようにして言った。
その目の輝きは、お互いに信じあっていた頃の人間達と同じものだ。
喜びと懐かしさで、ナイトの心が満ちていく。
「ありがとう」
ナイトは少年達の頭を撫でた。
「俺は確かにドライアドだけど、誰かをいじめたり、傷つけたりなんてしないよ。俺達は、君達みたいな人間が大好きなんだ。いつでも仲良くしたいって思ってるんだよ」
「そっかあ。みんな、きっと勘違いしてるんだね」
「ぼくもおにいさんと、ともだちになりたい!」
そう言った二人の気持ちが、ナイト達にとってどれほど嬉しいものか、彼らは気付いていないだろうけれど。
「ね、君達、名前はなんていうの?」
「ぼく、コータ!」
「ぼくは、リョータ」
よつばが聞けば、元気よく名乗る少年達。
「よーし、コータにリョータ! 兄ちゃんが肩車してやる! そら!」
ブランが両肩に二人を乗せて持ち上げると、兄弟ははしゃいで笑った。
「すごい! おにいちゃん、力持ち!」
「だろ~?」
ブランの人好きのする笑顔に、コータとリョータもすぐに懐く。
きゃあきゃあと声を上げてじゃれていたが、しばらくふざけ合った後、ブランはナイトにバトンタッチした。
「ほら、こっちの兄ちゃんも一緒に遊びたいってさ!」
ナイトはにこりと彼らに手を差し出す。
「そういえば名乗ってなかったな。俺の名前はナイトだよ」
幼き新たな友人達と交わす、和やかな握手。
「ナイトお兄さんっていうんだ……!」
「ナイトおにいさんの髪、とってもきれいだね~……!」
コータがナイトの髪を見上げて、その大きな瞳をキラキラさせた。
「おお、なかなか目の付け所がいいな。俺の自慢なんだ」
「ねえねえ、お兄さんたちはお友達同士?」
「うん、そうだよ」
リョータもカインににこにこと話しかける。
「ふふっ、あの子達楽しそう」
遊び相手を交代し、戻ってきたブランによつばが言った。
「やっぱりブランは明るくて、誰とでもすぐ仲良くなれてすごいね」
朗らかに話しかけ子供達の緊張をほぐし、あっという間に彼らの心を掴んで打ち解けてしまったブランを、よつばは尊敬するように見上げる。
「ま、いつでも明るくて元気なのが俺の取り柄だし、信条みたいなもんだからな! ナイトやカインにはテンション高すぎだ、うるさいってしょっちゅう言われるけど」
「あはは、でもきっと二人もブランのそういうところが大好きなんだと思うよ」
「私もすごく素敵だと思うし、憧れるな」
よつばは自分が良いと思ったこと、素敵だと思ったことをためらいなく相手に伝える性格らしい。
「だーから、そんな褒めてもなんも出ないって! よつば、ケーキとか好きか? 帰りに奢ってやろうか?」
「あはははっ」
いつだって前向きで、元気な自分でいたい。そして、そのことでみんなに喜びや笑顔を届けたい。
それは自分にとって当たり前のことだったけれど、改めてそんなふうに褒められると少し照れくさい感じもして、ブランは冗談でそれを誤魔化した。
「……さてと……そろそろ行かないとな。コータ、リョータ、本当にありがとう」
しばらく二人と戯れた後、名残惜しく思いつつも、ナイトは兄弟達に別れを告げる。
「ぼくも、ナイトおにいさんに会えて、とってもうれしかった!」
「……今日のことは、パパやママやみんなには内緒だけど……いつかまた、ナイトお兄さんたちと遊びたいな」
コータとリョータの言葉は、じんわりとナイト達の胸に響いた。
「ああ、遊ぼう。約束だ」
「うん、約束だよ!」
ナイトが微笑んで再び手を差し出すと、リョータとコータも、嬉しそうにその手にハイタッチをした。



>>to be continued...

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