第1章「Heart」~蕾~ ①

乗り慣れたダイブライダーで、灯京の環状道路を走る。
乗り物と一体化し、空を駆けるような感覚で風を切れば、景色は一瞬で後方へ流れていく。
ジャンクションを通り過ぎたその先、目的の待ち合わせ場所はもうすぐだ。

休日の午後、学生らしきグループやカップル、買い物をして一息ついている親子などが、人工花壇の周りやベンチでのんびりとくつろいでいる、中央広場・セントラルスクエア。
「俺が一番乗りか。早く着きすぎちまったかな」
広場近くの路肩にライダーを止めると、ブランはヘルメットを取って辺りを見回した。
ダイブライダーのパネルに出ている時刻を確かめれば、約束の時間までまだ30分以上もある。
彼女……小鳥遊よつばと出会って、1週間。ナイト達とよつばは何度か連絡を取り合い、簡単な情報を交換していた。
今日はここで待ち合わせて、よつばと共に、彼女の育ての親だという人物に会いに行く予定だ。
『本当に信用してもいいのか』――あの日カインが言っていたことも、彼が抱いている不安も分かる。
けれどブランは、ドライアドを信じている人間に出会えたことが純粋に嬉しかったし、彼女の存在が自分達の目指す道を、新たな光で照らしてくれるのではないか……そんな風に感じていた。
(とにかく、行動しないことには何も変わらないし、変えられないしな)
あの子を信じて、前に進んでみたい。ブランはそう思っている。

駐輪スペースにダイブライダーを置いて戻ってくると、待ち合わせスポットになっているオブジェの前に彼女の後姿が見えた。
「よつば!」
ブランの声に振り返ると、よつばはパッと顔をほころばせる。
「ブラン、こんにちは」
「早いじゃねえか。約束の時間まで、まだ大分あるぜ」
「待ち合わせの前にちょっと買い物をしてたんだけど、思ったよりも早く用事が済んじゃって」
「ブランこそ、早いね」
「俺は仕事先から直接ダイブライダー飛ばしてきたからな」
二ッと歯を見せて、ブランは駐輪スペースを親指で指し示した。
「かっこいいなあ。ドライバーの仕事をしているってことは、灯京の道や色んな場所にも詳しいの?」
「もちろん! よつばはちょっと前に灯京へ戻ってきたばかりだったよな。分からない場所とか、行きたいところがあるなら案内してやるぜ」
「わ、本当? 嬉しい! 戻ってきてからまだあんまり出掛けられてないから、おすすめがあったら教えて欲しいな」
「おう! 任せろよ」
ブランはおどけて、どんと胸を叩く仕草をしてみせる。
「やっぱ俺のイチオシはメインタワーの展望スペースかな。あと、コメットパークも最近話題のスポットだ」
「コメットパークって私も聞いたことあるよ。D2コーポレーションが運営している複合アミューズメント施設だよね」
「そうそう、そこにある光る高速コースターがすげー人気らしくてさ。それとスポーツホールでは、色んな試合が観戦できて――」
ブランの話に耳を傾け、興味深そうに、そして楽しそうによつばは頷く。
「初めて会った時も思ったけど、ブランってすごく明るいし、話し上手だね」
「お、そうか?」
「うん! ブランの話を聞いてると、ワクワクしてくるよ」
「おいおい、そんなに褒めてもなんも出ないぜ~。ちょい待ち、ポケットに飴玉とか入れてなかったかな」
「あははは!」
先日、ナイトのドレスコレクションに夢中になっている姿を見た時も思ったが、彼女が目を輝かせて笑う様子は、とても好感が持てた。
不思議と、自分まで嬉しい気持ちになってくるのだ。
元々ブランは、彼女に限らず、他の誰かが笑ってくれる顔を見るのがとても好きである。
自分が元気に振る舞い、明るく話し接することで、誰かを喜ばせることが出来る幸せ……それを教えてくれたのは、ブランの元の持ち主だった。
彼が喜んでくれたように、他の人達にも喜んでもらいたい、いつだって誰かを励ましたい、楽しさを分かち合いたい。
それがブランのルーツなのだ。
「あと、アミューズメント系のスポットといえばさ――」
そんな調子で盛り上がっていると、しばらくして向こうから見覚えのある姿が歩いてきた。
「お待たせ。二人とも早いね」
「よう、カイン!」
「こんにちは」
広場の時計を見上げれば、いつの間にか待ち合わせ時間の5分前を表示している。
あっという間に感じたのは、会話が楽しかったからだろう。
「あとはナイトだけか」
「ギリギリまで仕事が入ってるって言ってたからな。ま、だからこそあいつの職場近くを待ち合わせ場所にしたわけだけど」
「あ、なるほど、それで……」
よつばが何か思い当たったように呟き、カインが首を傾げた。
「私があの日、ナイトと会ったのもこの近くだったから」
「そうか、ナイトが男の子を助けたっていう大階段は、この1つ向こうの通りだったね」
ちなみに彼によると、整備中だった大階段は、すでにメンテナンスを終えたらしい。
「あ、さっきの話の続きになるけど、大階段も季節によってイルミネーションで飾られたりして綺麗なんだぜ」
「へえ……!」
ブランは、先ほどまで灯京のイチオシ観光地や、人気のスポットの話をしていたことをカインに説明する。
「カインのおすすめの場所も教えてやったらどうだ?」
「うん! 聞きたいな」
二人に話題を振られたものの、カインは少し困ったような表情になった。
「おすすめの場所……。うーん、でも僕はあんまり流行りの場所とかには詳しくなくて……」
口元に手をやりつつ、しばし悩み顔で思案していたが、ふと思いついたように顔を上げる。
「あ、そうだ。僕の働いているバーチャルペットショップから少し行ったところに、大きな映画館があって、そこは結構お気に入り、かも」
「そうなんだ……!」
「とは言っても、僕もそんなに何度も行ったことがあるわけじゃないんだけどね」
本当にたまに行く程度、とカインは苦笑した。
「あとは灯京コアライブラリーは、データも蔵書も多いから、時々仕事帰りに寄るよ」
「図書館か~。そういや、しばらく行ってねえなあ」
ブランはガシガシと頭を掻く。
「メインタワーに、アミューズメントパークにスポーツホール、映画館、ライブラリー……うーん、どこも魅力的で、みんな気になる……」
「じゃあそのうち、よつばに灯京案内するのも兼ねて、俺らのおすすめスポットを巡るツアーをするってのはどうだ?」
「わ、それ楽しそう!」
ブランの提案に、よつばは大喜びで頷いた。
「ナイトの奴は、どんな所を推すだろうな」
「ナイトはそれこそ、僕らの中で一番流行に詳しいからね。新しいお店や、オシャレなカフェなんかを紹介してくれそうじゃない?」
「カフェでみんなでお茶をするのも、癒されそうだなあ」
そのナイトが駆け足でやってきたのは、待ち合わせ時刻を少し過ぎた頃だった。
「悪い、待たせたか」
「ううん、大丈夫。仕事、お疲れ様」
カインが労って、ぽんとナイトの背を叩く。
「ああ。はあ、やれやれ。打ち合わせが思った以上に長引いてな」
ナイトは自慢の金髪を軽くかき上げて整えながら、息をついた。
「よし、これで全員揃ったな。それじゃ行くとするか」
「うん」
先ほどまでのほのぼのとした会話から、気持ちを少し切り替える。
これから会う予定である人物について、ナイト達の持つ情報はまだ少ない。
ルカの古い知り合いで、ドライアドの研究者であるという、よつばの養父は一体どのような人物なのか……期待や不安、様々な感情を抱きつつ、よつばの案内でその場を移動しようとした時だった。
「あっ、あの……!」
「?」
自分達の背にかけられた呼び声に振り返る。
そこに立つ姿を見て、ナイトは目を見開いた。




>>to be continued...

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