第1章「Heart」~欠片~ ①

「──さて。足も服も綺麗に直ったことだし、お前達、改めて自己紹介でもしたらどうだ?」
「……!」
ルカの声で、ナイトはハッと我に返る。
いつの間にかよつばをじっと見つめていたことに気付き、わずかな気恥ずかしさを覚えた。
「たしかに、俺らはまだちゃんと名乗ってもねぇしな」
「そうだね。バタバタしちゃっていたし、私もみんなの話、色々聞きたいな」
ブランが賛同する声に、よつばも微笑みながら頷く。
「ほら、まずはお前が」
ブランに促され、ナイトは改めてよつばに視線を移した。
「俺はナイト。ご覧の通り、婦人服ブランドの『ELLA』でデザイナーをしている」
「うん、あなたが素晴らしいデザイナーさんだってことは、今見ただけで十分感じたよ」
カインから借りたタブレットを手にしたまま、よつばはにこやかに告げた。
(やっぱり……雰囲気が似ている気がする)
明るく屈託のない笑顔、まっすぐに自分を見つめる眼差し。
『彼女』と過ごした懐かしい日々に思いを馳せれば、優しさと切なさが入り混じった、甘くほろ苦い感情が胸をよぎる。
そんなナイトの隣で、ブランが朗々と話し始めた。
「よし、次は俺の番だ。俺の名前はブラン。運送会社でドライバーをやってる。大型トラックでもバイクでも、船でもロードスターでも! 機械系の乗り物なら、何でも乗りこなせるぜ!」
「わぁ、そうなんだ。どおりで、さっきの運転もすごく乗り心地がいいなって思ってたの。さすがプロだね」
「おっ、本当か? ありがとな」
「『荷物も人も、安全かつ迅速にお届けします』、がモットーだからな。そう言ってもらえて嬉しいぜ」
賛辞を受け、ブランは得意げに胸を張った。
そして、隣に立つカインの脇腹をツンツンと肘でつつく。
「カイン、お前も」
「あ……うん」
カインはほんの一瞬戸惑うように目を瞬くと、よつばに顔を向けた。
「僕はカイン。えっと……今はバーチャルペットショップの店員として働いてるんだ」
「へぇ、ペットショップで……!」
「こいつ、動物が大好きでさ。まさに天職なんだよな」
ブランがそう言葉を添えると、よつばは目を細めて顔をほころばせる。
「私も動物は好きだよ。可愛いよね」
「……うん」
やや硬かった口元を緩ませ、カインは短く答えた。
「そっか……みんな、いろんな仕事をしているんだね」
よつばは今一度三人の顔を見渡すと、感慨深そうに呟き、言葉を続ける。
「じゃあ、次は私の番。……さっきナイトには、名前しか伝えなくてごめんなさい。急に名乗っても驚かせると思って……」
ナイトに向かい、そう申し訳なさそうに前置くよつば。
その表情がどこか寂しそうに見えるのを気にかけつつも、ナイトは首を横に振った。
「いや、大丈夫だ」
(もしかしたら、本当に……)
胸騒ぎにも似た予感を覚えつつ、彼女の次の言葉を待つ。
よつばは小さく息を吸ってから、三人を見据えてはっきりと名乗った。
「改めて……私は小鳥遊よつばと言います。どうぞよろしく」
「小鳥遊……」
「その名前は……」
声を発したのはナイトと、それに続いてカインだ。
ブランだけはやはり何も思い当たらない様子で、神妙な顔つきになった他の二人を見比べる。
「おい、さっきから何なんだよ? 小鳥遊って名前がどうかしたのか?」
「やれやれ。相変わらずブランは、こういうことの覚えは悪いな」
「まったくだ。俺達にとってこれほど重要な名前は他にないだろうに」
ルカが苦笑混じりに評する声に、ナイトが渋面で便乗する。
「君は、もしかして──」
幾分張り詰めたカインの問いかけに、よつばはこくりと頷いた。
「うん、私はオークリーフ研究所でドライアドを開発した小鳥遊家の人間──あの爆発事故で亡くなった、小鳥遊渡(わたる)とリサの娘なの」
「……!」
それはある程度予想していた返答であったが、ナイトは息を詰めずにはいられなかった。
カインも同じ思いのようで、自然と顔を見合わせる。
「もしやとは思ったが……」
「……やっぱり、そうだったんだね」
静かな驚きを滲ませる二人の傍らでは、ようやく気付いたブランが目を真ん丸に見開いていた。
「あっ……小鳥遊って、そうか……!」
「思い出した、ブラン?」
「ああ、すっかり忘れてたぜ……! そっか、小鳥遊って……そうだよな……!」
「だから言っただろう、俺達にとって重要な名前だと」
(まさか……彼女が、俺達の生みの親の子孫だったとは)

ドライアドロイドは、かつてこの灯京にあった『オークリーフ研究所』という施設で研究・開発された。
研究所創設者の名は小鳥遊亨(とおる)。その功績は広く称えられ、世間は彼を『ドライアドの父』と呼んだ。
月日と共に研究は親族へと受け継がれ、最後に事業の中心にいたのは亨の曾孫に当たる小鳥遊渡とその妻リサ。
しかし約十年前、とある出来事によってオークリーフ研究所はその機能を停止し、解体した。
それがドライアドによる傷害事件、『ルナティクス・エラー』と関連するもう一つの事件──『オークリーフ研究所爆発事故』だ。
ルナティクス・エラーで世間は混乱を極め、当然のことながら開発元であるオークリーフ研究所に非難が集中した。
研究所は『原因究明に努めている』と声明を出したものの、その進捗や成果は一向に公表されず、人々の不安と苛立ちは募るばかり。
原因は何なのか、どのような責任の取り方をするのかと注目が集まる中。某日未明に、研究所で大きな爆発事故が起こったのだ。
犠牲となったのは深夜まで研究所に詰めていたらしい渡・リサ夫妻。
当時の代表者であったこの二人を失っては、オークリーフ研究所は実質的に解体したも同然だった。
ドライアドの製造が不可能となっただけでなく、『ルナティクス・エラー』の原因を究明すべき機関も消滅──人々はさらに動揺し、向ける先のなくなった怒りを残されたドライアド達にぶつけた。
こうして『ルナティクス・エラー』は真相不明のまま、世間ではドライアド迫害運動が加速し、ドライアド達は頼る場所もなく追い込まれていったのである。都市を出て人間達と関わらずに暮らしていくという選択肢は、やむを得ないものであった。




>>to be continued...

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