第1章「Heart」~出会い~ ①

「ケガをしてるんだね。手を貸すよ」
差し伸べられた手と優しい笑顔を、ナイトは見上げた。
周囲の人間達は、自分を疑い、怯えて遠巻きにしているのに、どうして彼女は躊躇いなく手を貸してくれるのだろう。まさかこの状況で、目の前の者がドライアドロイドだと気付いていないはずはないのに。
嬉しい、という感情と共に、様々な疑問と困惑がナイトの中を駆け巡る。
彼女の表情と声は、ただ真っ直ぐで、優しい。
「ありがとう……」
彼女の手を取り、ナイトはなんとか立ち上がった。
「少しバランスを取っていられる?」
女性は手早くポケットからハンカチを取り出すと、ナイトが自分で巻いたハンカチの上からさらに重ねて巻いて、破損部分を隠すと同時に上手く固定した。
「あ、その……すまない」
「気にしないで。とにかく一旦ここを離れよう。私の肩に腕を回して」
言われるままに肩に腕を回すと、彼女はナイトを支えて歩き出した。
周囲から、ひそひそと声が聞こえる。
「あれはやっぱりドライアドなの?」
「どうして灯京(トウキョウ)にドライアドが……」
「奴らはみんな、どこかへ行ったんじゃなかったのか?」
明らかに自分を異物として見る彼らの言葉が鋭く胸を刺したけれど、ナイトはとにかくここを急いで離れようと足を必死に動かした。


大きなビルとビルの合間にある路地を見つけて、二人はひとまず腰を下ろす。
「……ありがとう」
もう一度きちんとお礼を伝え、ナイトは自分に肩を貸してくれたその女性を改めて見た。
黒髪を後ろで軽く一つに束ね、澄んだ目をした若い女性だった。年は二十歳前後だろうか。
「ううん。それより無理に歩かせちゃってごめんなさい。ひとまずあの場を離れた方が良いと思ったから……」
「いや、本当に助かった。でも、もう平気だよ」
だから、君も俺から離れた方がいい。
暗にそういう意味を含めてナイトは言ったつもりだったが、彼女はその場を去ろうとはしなかった。
「ちょっと待ってね、今応急処置をするから」
「応急処置?」
「道具も材料も揃ってないから、本当に簡単なことしかできないけど」
そう言って、カバンから何やらケースを取り出す。中には自分も見慣れたドライアド専用のツールが並んでいて、ナイトは目を見開いた。
「どうしてそんなものを……君は一体」
「ごめんなさい。自己紹介が遅れちゃったね」
慌てて彼女はナイトに向き直る。
「私は、よつば。ドライアドの技師見習いです」
「技師見習い?」
馬鹿な、と言いそうになってナイトは口を閉じた。
今の灯京に、ドライアドロイドの技師見習いなどいるはずがない。しかも、こんな若い女性の人間など、ありえない。
「……信じられないかもしれないけど……大丈夫、絶対にあなたに危害を加えたりしないよ」
よつばと名乗った彼女は、再びナイトを真っ直ぐに見つめた。
その透き通ったブラウンの瞳に、ナイトが映る。
冷静に考えるなら、見知らぬ彼女に自らの内部パーツを晒すなど愚かなことだろう。
けれどナイトはなぜか、彼女はその言葉通り自分に危害を加えたりしない、そう感じていた。
「…………」
沈黙を同意と受け取ったのか、彼女は先ほどナイトの足に巻いたハンカチを外した。慣れた手つきで剥き出しになった細いコードと電子回路の応急処置を始める。
「関節動作補助パーツの一部が破損してる……。これは取り替えないといけないから、とりあえずショートしている部分だけでも……」
よつばの口から出る専門用語は、間違いなくドライアドの知識があるということを証明している。
(一体、何者なんだ)
灯京に、もうドライアドの技師を育てるような機関など存在しないはずなのに。




>>to be continued...

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